My Book Review

やなせたかし 明日をひらく言葉

アンパンマンの生みの親
『やなせたかし 明日をひらく言葉』を読んで

アンパンマンが好きです。

アンパンマンのグッズを集めているとか、アンパンマンに出てきたキャラクターをすべて言えるとか、そんなことは全然できませんが。

アンパンマンが好きです。

大学生のころ「それいけ!アンパンマンくらぶ」に出演しているお姉さんになりたいなぁと漠然と思っていたくらいには、アンパンマンが好きです。

20代前半のころ、当時お付き合いをしていた夫を誘ってアンパンミュージアムに行ったことがあります。

アンパンマンミュージアムの主役は子どもたち。

子どもたちの邪魔をしないよう、一番後ろの席でショーを観たり、アンパンマンのオブジェやバイキンマンUFOと写真を撮ったり…

…全力で楽しんでいる子どもたちを羨ましく思ったのを覚えています。

少し肩身の狭い思いでミュージアムをみてまわりましたが、「ジャムおじさんのパン工場」というパン屋さんで、「買って買って」と親におねだりしている子どもたちを尻目に、アンパンマンと仲間たちのキャラクターパンを山ほどトレーにのせてレジに並んだときは、大人の良さも感じました。

…話がだいぶん飛んだ気がしますが、アンパンマンの生みの親である「やなせたかし」がこれまでどんな生き方をしてどんな考え方を持っているのか興味を持ち、彼の本を一気に何冊か読んだことがあります。

そのうちの1冊がこれ。

『やなせたかし 明日をひらく言葉』

この本は、これまでやなせたかしが残した言葉とともに、彼のこれまでの人生や仕事について、希望、正義、善悪、いのち…に対する考え方やアンパンマンの誕生秘話などが紹介されています。

やなせたかしは、小さいころは劣等感に悩み、青年期は戦争を経験、そして肝心の作品(アンパンマン)がブレイクしたのは70歳にせまるころ。

代表作をつくりたい。漫画家としてのアイデンティティを持ちたい。
そんな長い間の願いがかない、アンパンマンの人気が高くなったのは、なんと七十代に入る直前、六十九歳のときだった。遅咲きも遅咲き。よく「大器晩成」とおだてられるが、いやいや、「小器晩成」の典型だ。
でも、大器でも小器でも、いいじゃないか。せっかく生まれてきたのだ。絶望するなんてもったいない。
なんとかなるさと辛抱して、とにかく生きていくんだ。
人生は捨てたものではない。やがて道は拓けてくる。それが実感だ。

『やなせたかし 明日をひらく言葉』

その人生は順風満帆ではなかったと書かれていますが、悲壮感をあまり感じさせないのは最終的にブレイクしたからか、それとも彼自身の性格なのか、はたまたあえて悲壮感を感じさせないように書いているからか…。

そしてやなせたかしが仕事に向かう姿勢で好きだなと感じたのは、作品に「毒」を入れないこと。

いろいろな仕事をしてきたが、どの仕事でも、仕事の中に精神的な毒を入れることは、決してしなかった。
教訓的なことはあまり好きではない。話はできるだけおもしろいほうがいい。
だが、いくらおもしろくするためでも、「毒」は入れない。本や音楽は精神の栄養であり、体を流れる血になると思うからだ。
特に、子どもが見る絵本はそれが絶対条件だと言ってよいと思う。
収入の少ないときも、この考え方は曲げなかった。そして、いつも自分の好きなこと、自分が描きたいものだけを描いてきた。
「良質な作品では読者がつかない」と言う人もいるが、間違いだ。読者がつかない原因は、ただおもしろくないからである。
良質であることと同時に、「売れるだろうか」ということを常に気にかけてきた。売れないのは、子どもにおもしろいと思ってもらえなかったことであり、作家として非良心的であると、深く反省すべきなのだ。
こうして、自分にうそをつかない仕事を続けてきたら、少しずつ収入も増えてきたのだから、世の中は意外に公平にできている。

『やなせたかし 明日をひらく言葉』

そして「ほんとう」を書くこと。

いつでもほんとうのことを書かなくてはいけないのですが
そのほんとうのことというのは、
眼に見えたそのままでなく、
真実よりもなお真実というものです。
それが精神的な部分に命中したとき、
私たちは感動するのです

『やなせたかし 明日をひらく言葉(風の口笛)』

たくさんの童話も書いてきた。童話をただの空想でつくると考えているなら、それは間違いだ。体験や願い、主張が託されたものなのだ。
社会には悪いこと、汚いこと、うそや暴力も横行している。
子どもたちは、いずれ、そういう醜さとも対峙することになる。だから、童話が夢やメルヘンだけでは、大事なものが欠落してしまう。

『やなせたかし 明日をひらく言葉』

この「ほんとう」という言葉にひっかかったのは、私の母親がよく「思いつきだけじゃだめ」「子ども向けのものにこそ本物を」と言っていたからだと思います。

幼児たちの間で、アンパンマンの人気は野火のように広がっていった。出版社から、アン
パンマンの絵本を次々と出すように求められ始めた。 そのとき「小さい子どもが読者なのですから、グレードをうんと下げてください」と何度も言われた。
でも、そうはしなかった。「グレードを下げる必要はない。作者として伝えるべきことを、しっかりと伝えていこう」と心に決めていた。
幼児は恐るべきところがある。純粋無垢で、まっすぐな目を持っている。気に入らない本は、容赦なく放り投げる。世の中でもっとも冷酷な批評家でもあるといえる。
よく、幼児に赤ちゃん言葉で話しかける大人がいるが、そんな必要はない。幼児は言葉で表現できないだけで、ものごとの本質をストレートに感じ取っている。大人に対するとき以上に、人格として認めたほうがいい。
そんな厳しい読者を相手に仕事をすることになって、「傷つくことなしに正義は行えない」というメッセージをはっきり込めるようにした。正しいことに、大人も子どもも関係ないという考え方も貫いた。

『やなせたかし 明日をひらく言葉』

そして私が好きなばいきんまんについても書かれていました。

アンパンマンが成功したのは、ばいきんまんの功績が大きい。自分で言うのもなんだが、ばいきんまんは世界的傑作だと思う。
(中略)
甘いものにはちょっと塩を入れるほうがいい。「毒」は絶対に入れてはいけないが、おもしろい話にしようと思ったら、ちょっと怖くしたり、悪を入れるといい。

『やなせたかし 明日をひらく言葉』

最後に、収録されている言葉のなかで素敵だなと思った言葉を。

昨日は過去で、明日は未来。
今だけ現実なんだけれど、
過ぎてしまえば夢だから、
1秒きざみに夢になる。

『やなせたかし 明日をひらく言葉(やなせたかし メルヘンの魔術師 90年の軌跡)』

この本は、右ページにやなせたかしの言葉が大きく紹介され、左ページに1ページで読み切れるコラムが載せられているというレイアウト。

やなせたかしの人生や仕事について、希望、正義、善悪、いのち…に対する考え方やアンパンマンの誕生秘話などがコンパクトにまとめられています。

コンパクトにまとめられているので、読みやすい反面、少し物足りない感じもありますが…。

この本は

そんな人におすすめの1冊です。

『やなせたかし 明日をひらく言葉』
PHP研究所編(PHP文庫)